小さなお灸が、体を動かす。②

小さなお灸が、体を動かす。②
「熱い!」と感じた瞬間、体の中では何が起きている?
「あっ、熱い!」
熱いお鍋にうっかり触ってしまったとき。
熱いお茶をあわてて飲んでしまったとき。
夏のアスファルトを裸足で歩いたとき。
誰もが一度は経験したことがあるのではないでしょうか。
そして、不思議なことがあります。
私たちは「熱い!」と思った瞬間には、もう手を引っ込めたり、足を離したりしています。
「手を引っ込めよう。」とゆっくり考えてから動いたわけではありません。
体が先に反応しているのです。
では、どうして体はそんなに早く反応できるのでしょう。
その秘密は、皮膚の中にあります。
私たちの皮膚には、小さな「見張り役」がたくさんいます。
見張り役は、暑さや冷たさ、押されること、痛みなどをいつも感じ取っています。
そして、
「熱が来たよ!」
という知らせを、すぐに神経へ伝えます。
すると神経は、その情報をあっという間に脳や体のあちこちへ届けます。
だから私たちは、「熱い!」と感じたり、危険から体を守るためにすぐ動いたりできるのです。
ここで少し考えてみてください。
もし体が熱を感じられなかったら、どうなるでしょう。
熱いフライパンをずっと持ち続けてしまうかもしれません。
やけどをしても気づかないかもしれません。
それでは、体は自分を守ることができません。
つまり、
「熱い」と感じることは、体を守るための大切な力なのです。
では、お灸の熱はどうでしょう。
お灸も、体にとっては「熱」です。
すると皮膚の見張り役は、
「小さな熱が来たよ。」
と神経へ知らせます。
ここで大切なのは、お灸の熱は体を驚かせるためではなく、体が気づけるくらいの小さな刺激だということです。
この小さな刺激を受けて、体は動き始めます。
神経へ知らせが届きます。
その知らせを受けて、血管が反応したり、筋肉がゆるんだり、体の働きが少しずつ変わっていきます。
つまり、お灸は熱そのものが働いているのではなく、その熱に反応する体が働いているのです。
実は、この「見張り役」には名前があります。
医学では「感覚受容器」と呼ばれています。
その中には、熱だけではなく、痛みや圧力など、いろいろな刺激を感じ取るものもあります。
少し難しい名前ですが、「ポリモーダル受容器」と呼ばれる仲間です。
最近では、その仕組みも少しずつわかってきました。
熱を感じるための小さなスイッチのようなものが細胞についていて、熱が加わると、そのスイッチが入り、神経へ「熱が来たよ!」という情報を送っています。
昔は、この仕組みはわかっていませんでした。
それでも昔の人は、
「お灸をすると体が変わる。」
ということを、長い時間をかけて見つけてきました。
そして今、科学は少しずつ、
「体の中では、こんなことが起きていたんだ。」
ということを説明できるようになってきています。
私は、お灸の火は少し変わった存在だと思っています。
体を焼くための火ではありません。
ただ温めるための火でもありません。
小さなお灸の火は、体への一つの「問いかけ」なのかもしれません。
「今の体は、この刺激にどう反応するかな?」
すると体は、
「わかった。任せて。」
というように、自分の力で動き始めます。
だから、お灸の本当の主役は火ではありません。
その火に応えてくれる、あなた自身の体なのです。
次回は、
「お灸をした場所だけじゃない? なぜ体全体に変化が広がるの?」
という不思議について、一緒に考えていきましょう。
