血流を支える内臓の働き
血流を支える内臓の働き
――血の流れは、心臓だけでつくられているわけではありません
「血液を流している臓器は?」
そう聞かれたら、多くの人が、
「心臓!」
と答えると思います。
もちろん正解です。
心臓はポンプのように動いて、全身へ血液を送り出しています。
でも、ここで一つ質問です。
心臓だけ元気なら、血の流れはいつも良くなるのでしょうか?
実は、そう単純ではありません。
呼吸が浅い。
食事がうまく消化できない。
疲れが取れない。
ストレスで体がガチガチ。
こんな状態では、心臓だけが頑張っても、体全体の働きはうまくいきません。
血の流れは、体中のさまざまな働きが協力してつくられているからです。
東洋医学では、体を「チーム」で考えます
東洋医学には、
心・肺・肝・脾・腎
という「五臓」の考え方があります。
ここで少し注意が必要です。
東洋医学でいう「肝」や「腎」は、西洋医学でいう「肝臓」「腎臓」という臓器だけを指しているわけではありません。
もっと広く、
体の中で起きている働きや、そのつながり
を表しています。
たとえば、会社で考えてみましょう。
営業部。
製造部。
運送部。
管理部。
それぞれ仕事は違います。
でも、一つの会社として協力しています。
体も同じです。
五臓がそれぞれの仕事をしながら、一つの体を支えていると東洋医学では考えます。
「心」――血を全身へ送り出すリーダー
まずは「心」です。
西洋医学でも、心臓は血液を全身へ送り出すポンプです。
東洋医学でも「心」は、血の巡りと深く関係すると考えます。
イメージするなら、
血液を全身へ送り出す司令塔です。
しかし、司令塔だけでは仕事はできません。
送り出す血液も必要です。
酸素も必要です。
栄養も必要です。
道路である血管の状態も大切です。
つまり、「心が頑張れば全部解決」というわけではないのです。
「肺」――呼吸とともに、全身を動かす
息を吸ってみてください。
胸が広がります。
吐くと、胸が小さくなります。
私たちは一日に何度も、この動きを繰り返しています。
肺は酸素を体に取り入れます。
そして呼吸による胸の動きは、血液が心臓へ戻ることにも関係しています。
東洋医学でも「肺」は、全身に必要なものを巡らせる働きと深く関係すると考えます。
緊張しているとき、呼吸が浅くなった経験はありませんか?
反対に、大きく息を吐くと、少し体の力が抜けることがあります。
呼吸は、ただ酸素を取り入れるだけではありません。
体全体の状態と、深くつながっているのです。
「脾」――食べたものを、体が使えるものへ
どんなに良いものを食べても、
体がうまく受け取れなければ、十分に活かすことはできません。
東洋医学の「脾」は、食べたものから体に必要なものを取り出し、全身を養う働きと関係すると考えます。
これは、以前お話しした宅配便で考えると分かりやすいでしょう。
血液が宅配便でも、
届ける荷物がなければ運べません。
食欲がない。
食べるとすぐ疲れる。
胃が重い。
お腹が張る。
そんなときは、単に「栄養を食べればいい」とはいかないこともあります。
何を食べるかだけではなく、それを体が受け取れる状態なのか。
これも大切な視点です。
「肝」――流れをスムーズに調整する
イライラすると、肩に力が入る。
緊張すると、お腹が痛くなる。
心配事が続くと、よく眠れない。
そんな経験はありませんか?
心と体は、別々ではありません。
東洋医学の「肝」は、体のさまざまな働きがスムーズに動くよう調整することと深く関係すると考えます。
イメージするなら、
道路の交通整理をする人です。
道路があっても、あちこちで渋滞していたら、荷物はうまく届きません。
東洋医学では、ストレスや緊張によって体の巡りが乱れることを、とても大切に考えてきました。
「気持ちの問題だから我慢すればいい」のではありません。
心の状態が体の働きに影響し、その体の状態がまた心に影響する。
人の体は、そうやってつながっています。
「腎」――長く活動するための土台
年齢を重ねると、
昔より疲れやすくなった。
無理がきかなくなった。
回復に時間がかかる。
そう感じることがあります。
東洋医学の「腎」は、成長や老化、生命を支える土台と深く関係すると考えます。
車でいえば、
バッテリーやエンジンの土台のようなものです。
どんな人も、年齢を重ねます。
若い頃と同じように無理をし続けることはできません。
だからこそ大切なのは、老化を完全に止めようとすることではなく、
今の自分の体に合った使い方へ、生活を少しずつ変えていくことなのかもしれません。
血の流れは、一つの臓器だけではつくれません
ここまでをまとめてみましょう。
- 心――血を巡らせる
- 肺――呼吸を通して全身の働きを支える
- 脾――食べたものから体を養う
- 肝――全身の働きがスムーズに進むよう調整する
- 腎――生命活動の土台を支える
大切なのは、
どれが一番重要かを決めることではありません。
みんな違う仕事をしています。
そして、みんなが協力しています。
だから東洋医学では、症状が出ている場所だけを見るのではなく、
「体全体のチームワークはどうなっているのだろう?」
と考えます。
肩が痛いから、肩だけの問題とは限らない
肩こりがある。
だから肩を揉む。
もちろん、それで楽になることもあります。
でも、
なぜ肩が硬くなったのでしょう?
呼吸が浅かったのかもしれません。
睡眠不足だったのかもしれません。
食事から十分にエネルギーを得られていなかったのかもしれません。
強いストレスが続いていたのかもしれません。
つまり、
症状が出ている場所と、その症状を生み出した背景は、同じとは限らないのです。
これは、東洋医学のとても大切な考え方です。
血流を良くするとは、体全体を整えること
「血流を良くする」と聞くと、
血液をたくさん流すことを想像するかもしれません。
しかし、本当に大切なのは、
必要な場所へ必要なものを届け、不要なものを回収できる体であること。
- そのためには、
心臓だけでも、
運動だけでも、
食事だけでも足りません。
呼吸する。
食べる。
眠る。
動く。
休む。
そして、心と体が環境に合わせて調整する。
その体全体のチームワークの結果として、良い血の流れが生まれるのだと思います。
東洋医学は昔から、体をバラバラの部品としてではなく、つながりの中で見ることを大切にしてきました。
症状だけを見るのではなく、
その人の体全体が、もう一度うまく働けるように整えていく。
それが、鍼灸治療の大切な役割の一つだと私は考えています。

