先天の気と後天の気
― うまれもった力と、日々つくる力 ―
私たちの身体には、「気(き)」という生命のエネルギーが流れています。
その気には、大きく分けて二つの種類があります。
一つは「先天の気(せんてんのき)」、もう一つは「後天の気(こうてんのき)」です。
先天の気 ― うまれもった力
先天の気とは、生まれもった生命の力のこと。
お父さんとお母さんから受け継ぎ、お母さんのおなかの中で育つ間に、私たちの身体の基礎が形づくられます。
骨や歯の丈夫さ、体の成長の速さ、年を重ねてからの元気の持ち方なども、この先天の気と関係があると東洋医学では考えます。
先天の気は、「腎(じん)」という臓に宿るとされます。
腎は、ただの“腎臓”という意味ではなく、生命の根っこを表す言葉。
ですから腎を大切にすることは、うまれもった力を守ることにつながります。
たとえば――
・無理をしすぎない
・しっかり休む
・冷えから身を守る
・安心して笑う
こうした日々の養生が、腎の力=先天の気を守る方法なのです。
後天の気 ― 生きながら育てる力
一方、後天の気は生まれてから取り入れるエネルギーです。
食べ物を食べ、空気を吸い、体の中で気や血を作り出す。
この働きをしているのが「脾(ひ)と胃(い)」です。
食事が不規則だったり、早食いや冷たい物をとりすぎたりすると、脾胃が弱り、後天の気が足りなくなります。
すると、「疲れやすい」「やる気が出ない」「風邪をひきやすい」などの症状が出てきます。
逆に、
・よく噛んで食べる
・あたたかい物を中心に
・規則正しい生活を心がける
・深い呼吸を意識する
といった日々の積み重ねが、後天の気を豊かにします。
二つの気が支えあって生きている
先天の気は“ろうそくの芯”、
後天の気は“ろうそくの炎を保つ油”のようなもの。
芯がしっかりしていなければ火は立たず、油がなければすぐに燃え尽きてしまいます。
この二つが助けあって生命を輝かせているのです。
鍼灸では、この気の流れを整え、腎と脾胃の働きを高めることで、体の内から元気を取り戻すお手伝いをします。
先天の気を守り、後天の気を育てることが、長く健やかに生きるための知恵です。
養生のヒント
- 朝は深呼吸で新しい空気をとりこむ
- 食事はできるだけ「旬」のものを
- 夜は11時前に休む(腎の時間)
- 冷えから腰・お腹を守る
- 何より、心をゆるめる時間をもつ
これらの小さな習慣が、うまれもった力(先天の気)を守り、
毎日の元気(後天の気)を育てる、いちばん確かな方法です。
「うまれもった力を大切に、日々の暮らしで育てる」
それが、東洋医学の考える“養生”の基本です。
追記
蝋燭(先天の気)
ろうそくは、生命の芯を表しています。
火を灯すための**芯(先天)と、それを燃やし続ける油(後天)**がなければ、光は続きません。
東洋医学では、
- 芯 = 先天の気(うまれもった力・腎の精)
- 油 = 後天の気(食べ物・呼吸から得るエネルギー)
とされ、どちらも欠けては生命の火が絶えてしまうと考えます。
つまり、蝋燭は「生命の灯を支える仕組み」の象徴。
花(後天の気のあらわれ)
花は、いのちのあらわれ・結果を意味します。
根(腎)に蓄えた先天の力と、日々の食事や呼吸(脾胃・肺)から得た後天の力が合わさって、ようやく花が咲く=生命が輝くのです。
花は、「気血がめぐり、心身が整っている」状態の象徴。
鍼灸でいう「気が充ちて流れが良い」時、人は自然に顔色が明るく、表情が穏やかになります。
それが、まさに“花が咲いたような健康”の姿です。