鍼灸物語〈プロローグ〉鍼灸はいつ日本にやってきたの?
〜はりとお灸の、はじまりの物語〜
「はり」や「お灸」と聞くと、どこか古くからある日本の療法、というイメージがありますよね。
でも、もともとは遠い中国で生まれた医学が、長い旅をして日本へやってきたものなのです。
はりとお灸のふるさと、中国
はりやお灸の歴史は、なんと2000年以上も前の中国にさかのぼります。
そこでは「気(き)」や「血(けつ)」が体の中を流れていると考えられ、それを整えることで病を治そうとしていました。
自然の流れと体の調和を大切にする――それが、今の鍼灸の原点です。
朝鮮半島を通って海を渡る
時は流れて4〜5世紀。
日本ではまだ、天皇を中心に国が形づくられはじめた「大和時代」。
人々は稲作をし、集落で助け合いながら暮らしていました。
そんな頃、中国や朝鮮半島から、たくさんの知識や文化が日本へ伝わりはじめます。
文字や仏教、鉄器、そして――医術。
その中に「はり」や「お灸」の知恵も含まれていたと考えられています。
きっと、海を渡ってやってきた医師たちは、不思議な細い針や、モグサの香りのするお灸を手にしていたのでしょう。
日本の人たちは、それを見て「こんな方法があるのか!」と驚いたに違いありません。
聖徳太子の時代、鍼灸が公式に!
やがて6〜7世紀、仏教が広まり、文化が花開く時代になります。
この頃、『日本書紀』には、百済(朝鮮の国)から**「医博士」や「針博士」が日本へやってきたと記されています。
つまり、鍼灸はこの時代に国の医学として正式に受け入れられた**のです。
治療を行う医師が育てられ、王族や貴族の健康管理にも鍼灸が用いられるようになりました。
「気を整える」「冷えを防ぐ」など、現代の私たちが大切にしている考えが、すでにその頃に息づいていたのです。
日本独自の鍼灸文化へ
平安時代になると、鍼灸はさらに日本の風土に溶け込みます。
『医心方(いしんぼう)』という医学書には、たくさんの鍼灸法やツボの記述があり、
そこには「病気を治すだけでなく、心と体を整える」という考え方が見られます。
日本人のやさしい感性と結びついて、
「季節を感じながら体を整える」
「お灸でこころをあたためる」
そんな文化が育まれていったのです。
鍼灸は“昔から続く養生の知恵”
はりやお灸は、ただの治療法ではありません。
それは「自分の体を大切にするための知恵」です。
2000年以上の時を経て、今もこうして受け継がれているのは、
昔の人たちがそれだけ**“こころとからだの調和”**を大切にしていたからかもしれません。
さいごに
考えてみれば、昔も今も「元気で生きたい」「家族が健康でいてほしい」という気持ちは同じです。
遠い昔、海を渡ってきたはりとお灸。
それは今の私たちの暮らしにも、そっと寄り添うように息づいています。
もし疲れたとき、冷えたとき、
「昔の人もこうしてお灸で温まっていたんだな」と思い出してみてください。
きっと、少しやさしい気持ちになれるはずです。