呼吸 第2回 生命と意識のあいだ ― 呼吸が橋渡しするもの ―
呼吸は、生命の中にある“意識の窓”
私たちは、一日中ずっと呼吸をしています。
でも、そのほとんどを意識していません。
寝ているときも、考えごとをしているときも、
呼吸は静かに私たちの体を支えています。
心臓や胃、腸は自分の意思では動かせませんが、
呼吸だけは「意識すれば動かせる」特別な働きです。
「深呼吸しよう」と思えば、できる。
「息を止めよう」と思えば、止められる。
それでも、意識を手放せば、自然に呼吸は続いてくれます。
つまり、呼吸とは――
“生命”と“意識”のあいだにある橋のような存在なのです。
「自律」と「意識」をつなぐ呼吸
私たちの体は、ほとんどの働きを自動で行っています。
これを「自律」といいます。
けれど、呼吸は少し違います。
自律の中にも、わずかに“選べる余地”があります。
浅く吸うか、深く吸うか。
速く吐くか、ゆっくり吐くか。
たったそれだけのことでも、
心の落ち着き方がまるで変わります。
焦っているとき、息が浅くなります。
泣いたあと、深く息を吐くと、少し落ち着きます。
これは、呼吸が**身体と心の間にある「通訳者」**だからです。
東洋の知恵にみる「気」と「意」
東洋医学では、
生命のエネルギーを「気(き)」と呼びます。
そして、その気をどこへ向けるかを「意(い)」といいます。
つまり――
- 「気」は、いのちの流れ
- 「意」は、その流れの方向を決める力
呼吸は、この「気」と「意」を同時に動かします。
呼吸を整えるということは、
気の流れを整えること。
そして、意の向きをやわらかくすること。
だから、呼吸を意識するだけで、
体も心も自然に落ち着いていくのです。
呼吸は、いのちとつながる扉
息を吸うとき、私たちは世界の空気を取り入れています。
吐くとき、私たちの息が世界へと返っていきます。
この循環の中で、
私たちは世界と静かに交わりながら生きています。
吸う息は、世界を迎え入れる。
吐く息は、自分をゆだねる。
呼吸は、自分のいのちを感じ、
同時に他者や自然とつながる行為なのです。
おわりに ― 呼吸を感じる、やさしい時間を
日々の生活の中で、
ほんの少しの時間でもいいので、呼吸を感じてみてください。
息が胸に触れる感覚。
空気が体の中を通り抜ける感覚。
その一瞬に、あなたの中の“生命と意識”が出会っています。
呼吸は、いのちの声。
そして、心が静かに微笑む瞬間。
今日も、やさしい呼吸をどうぞ。